相続放棄と未払いの公共料金

文責:所長 弁護士 伊藤貴陽

最終更新日:2024年03月28日

1 相続放棄の効果

 相続放棄は、はじめから相続人ではなかったことになる、という法的な効果があります。

 この効果により、相続財産を一切取得することができなくなりますが、相続債務も一切負担せずに済むようになります。

2 未払いの公共料金の法的性質

 被相続人の未払いの公共料金は、本来被相続人が支払わなければならなかった金銭ですので、法律上は相続債務の一種です。

 そのため、相続放棄をした場合、未払いの公共料金についても、相続人が支払う義務はなくなります。

 ただし、例外もあります。

 相続人が配偶者の場合は日常家事債務扱いとなり、相続人固有の債務として支払い義務は残る可能性があります。

3 実務上の取り扱い

⑴ 同居していなかった場合

 被相続人と、(元)相続人が同居していなかった場合は、支払を止めてしまえば、料金未払いにより、通常は解除されますので、あまり問題はありません。

 電力会社等に対し、相続放棄をした旨の一報をし、支払う義務がない旨を伝えた方が、処理が円滑に進むと考えられます。

 

⑵ 同居しており継続して住み続ける場合

 被相続人と、(元)相続人が同居しており、継続して住み続ける場合は、やや複雑です。

 電力等の継続供給を受けるためには、法律論としては、被相続人と電力会社等の契約については、一旦未払いを理由に法定解除(電力会社等から一方的に契約を解消してもらうこと)をしてもらい、改めて元相続人と電力会社等との間で契約をするという形になります。

 相続放棄をすると、1に述べたように、相続人ではなくなります。

 そのため、相続人として被相続人の契約関係を双方の合意で解除することはできなくなります。

 仮に相続人として合意解除をすると、被相続人の債権債務関係を処分することになるので、法定単純承認事由の発生ともとらえ得ます。

 実務上、合意解除をして問題になったという話を聞くことはほぼなく、被相続人の金銭の費消を抑えるという意味で保存行為ととらえる考え方もありますが、理論上はリスクを負う形になります。

 なお、被相続人の未払いの公共料金の請求書を見て、相続放棄をした元相続人、または相続放棄を予定している相続人が、支払をしてしまったということもあります。

 支払の原資が、(元)相続人の金銭であれば問題ありません。

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